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エクスプレスニュース No.14

「不動産を共有名義で相続した場合」

不動産の共有とは、1つの土地や建物を複数人が所有する状態の事をいいます。
被相続人(亡くなった方)が生前に遺言書を作成していない場合、相続人間で遺産分割協議を行いますが、被相続人の不動産以外の財産が少ない事を理由に、不動産を相続人間で共有により相続するケースが見受けられます。今回は、不動産を共有名義で相続することのリスクと、敢えて共有名義により相続する事例を取り上げます。

1.共有のデメリット

(1)不動産の「変更行為」・「管理行為」・「保存行為」

各行為に対して共有者間の合意時には、以下の違いがあります。

①「変更(処分)行為」
共有物の形状又は効用を著しく変更する行為で、売却・建替え・増改築など。
  ➡ 共有者全員の合意
(※1)不動産を売却する際には、原則として共有者全員の同意が必要となり、1人でも売却金額や売却時期などの理由で同意が得られないと、売却ができません。

(※2)所在不明の共有者の不動産持分の譲渡制度
所在不明の共有者がいる場合、裁判所の決定により申立てをした共有者に、所在不明の共有者の持分を譲渡する権限を付与することが可能です。この権限は、所在不明の共有者以外の共有者全員が、持分の全部を譲渡することを停止条件とするものであるため、不動産全体を特定の第三者に譲渡する場合に限り利用できます。
譲渡権限が行使されると、所在不明の共有者の持分も、特定の第三者に譲渡されますが、所在不明の共有者は、譲渡権限を行使した共有者に対して不動産の時価相当額のうち持分に応じた額の支払請求権を取得します(供託金から支払を受けることになります)。
ただし、相続により不動産が共有状態になり、その相続人の中に所在不明の共有者がいる場合には、相続開始から10年間は、この制度を利用することができません。

②「管理行為」
性質を変えずに共有物を利用・改良する行為で、賃貸や外壁工事など。
➡ 各共有者の持分価格の過半数の合意
(※)所在不明の共有者や、賛否を明らかにしない共有者がいる場合は、裁判所の決定により、それ以外の共有者の持分価格に従って、その過半数の合意が必要です。

③「保存行為」
共有物の現状を維持するための行為で、修理など。
➡ 各共有者が単独で対応可能

(2)維持管理費の取扱い

固定資産税は持分に応じて負担することになりますが、その納付書は共有者全員ではなく代表者のみに送付されます。また、その他維持管理費の立替精算の手間が生じます。

(3)共有者に相続が発生した場合

共有者となった兄弟姉妹に相続が発生すると、共有持分は共有者の相続人(甥姪など)に引き継がれ、権利関係が複雑になるリスクがあります。複雑になればなるほど、共有不動産について変更(処分)行為がしづらくなります。

2.敢えて共有名義により相続する場合

(1)相続税の納税資金調達のために、不動産の売却を前提として共有とする場合

相続財産のほとんどが不動産の場合には、納税資金調達のために相続した不動産を売却することも選択肢の1つです。
相続した不動産を相続開始日から3年10か月以内に売却した場合には、相続税額の一部を取得費に加算する特例(①:相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)を適用することにより、各共有者は譲渡所得に係る所得税等が軽減されます。
また、被相続人が生前1人暮らしをしていた戸建ての自宅が相続後に空き家になり一定の要件を満たすケースで、複数人の共有で相続により取得し、相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却した場合には、特例(②:相続した空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例)を適用することにより、各共有者は譲渡所得に係る所得税等が軽減されます。
ただし、上記①②の特例は併用できず、どちらかの選択適用になります。

(2)被相続人の妻と長男など、親子間での不動産の共有の場合

共有者の一方の判断により、相続した不動産の処分などは行えませんが、兄弟姉妹との共有ではなく、世代の異なる親子間の共有であれば、母の相続が開始した時点でその持分を長男が相続により取得することで共有状態は解消しますので、結果的に長男の単独所有となります。そして、2次相続(母の相続)の際は、遺産分割協議を円滑に行い易くなる効果も期待できます。
また、その不動産が親子の自宅として利用されており一定の要件を満たすケースで、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却した場合には、親子ともに特例(居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例)を適用することにより、譲渡所得に係る所得税等が軽減されます。さらに、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例の要件を満たせば、両特例ともに適用が可能となります(選択適用ではありません)。

(3)「地積規模の大きな宅地の評価」の適用を受ける前提で、土地を共有とした場合

平成29年度の税制改正により、広大地通達に代わって地積規模の大きな宅地の評価が創設されました。旧広大地通達では、最高で65%の減額が認められていたため、その効果は非常に大きいですが、その適用にあたっては不動産鑑定評価に関する知識が必要であり、その判定が難しいという意見が多くありました。地積規模の大きな宅地の評価は、旧広大地通達ほどの減額はできませんが(20~40%の減額)、適用要件(地積・地区区分・容積率等)が明確化されたため、評価し易くなったといえます。
地積規模の大きな宅地は、三大都市圏所在の土地であれば地積が500㎡以上であることが要件ですが、この500㎡以上か否かの要件は、複数の相続人が共有により取得した場合でも、共有者の持分に応じて判定するのではなく、按分する前の共有地全体の地積により判定します。例えば、地積600㎡の土地を相続人2人で1/2ずつの共有とした場合、その持分に応じて按分した300㎡ではなく、全体の地積600㎡で判定しますので、地積規模の大きな宅地の評価の適用が可能です。
一方、600㎡の土地を分筆して、それぞれ300㎡の土地として相続した場合は、500㎡以上という地積規模の要件を満たさないため、地積規模の大きな宅地の評価の適用が受けられない事になります。

3.「地積規模の大きな宅地の評価」適用後の共有の解消例

(1)共有物の分割(現物分割)

相続人2人が分筆を行わず共有により相続し、相続税の申告期限後に共有物の分割(現物分割)により300㎡ずつ各相続人が取得すれば、その分割による土地の共有持分の譲渡はなかったものとして、所得税の譲渡所得の課税はありません。
ただし、共有時の時価と分筆後の単有持分の時価が著しく乖離する場合には、贈与税が課税される可能性もあるため、注意が必要です。

(2)後発的事由による土地の売却と地積規模の大きな宅地の評価への影響

相続人2人が分筆を行わず共有により相続した時点においては、その土地の売却は予定されておらず、相続により土地を取得した後に後発的な事由により売却した場合には、地積規模の大きな宅地の評価の適用が否認されることはないと考えます。

 (担当:福田)

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