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エクスプレスニュース No.18

「民事信託(家族信託)」

財産管理・相続対策・事業承継のために利用される民事信託(家族信託)は、平成19年施行の改正信託法のもとで可能となった制度であり、制度開始以来これまでの利用件数は推定で3~4万件程度と言われていますが、特に最近になってその利用が急激に増加しています。この制度は本人の判断能力があるうちに信頼のおける家族に一定の目的で財産を託し、認知症などで本人の判断能力が低下した後も引き続き託された家族がその目的に従って管理・運用・処分が可能となります。

1.信託とは

(1)委託者(財産を預ける者)が、信託目的を定めて信託契約により受託者に特定の財産(信託財産)を移転し、
(2)受託者(財産を預かる者・形式的名義人)は、その信託財産を信託目的に従って受益者のために管理・処分等を行い、
(3)受益者(実質的かつ税務上の所有者)は、信託財産から生じる利益を受けます。

2.高齢化(認知症)対策としての活用例

(1)家族の状況
父は多数の賃貸不動産を所有。母は既に亡くなっており、子供は2人(長男・次男)。父は不動産の有効活用を含めた相続対策を行いたいが、最近物忘れが多くなりはじめ、修繕や賃貸等の契約にも支障が出始めている。

(2)解決策

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【信託契約の例】
①信託目的
□受託者(長男)が信託財産(現金・賃貸不動産)の適切な管理・運用・処分を行い、委託者かつ受益者(父)の生活・介護・療養・納税等に必要な資金を給付。

□父の不動産を担保とする借入の実施。
➡受託者(長男)が借入をして賃貸物件を建築すると、その物件は信託財産となり、借入を含めて受益者(父)に帰属します。

□生前贈与の実施。
➡利益相反行為に関する特約を盛り込むことで、受託者(長男)は、信託金融資産の状況に応じて、受託者自身や次男に対し、一定の限度額を設けて贈与が可能です。

②委託者かつ受益者:父
信託前後で実質的な所有者が同一(父)のため、信託契約時に贈与税の課税はありません。

③受託者:長男
信託契約時に長男名義で信託不動産の登記をする際、登録免許税は課税されますが、不動産取得税は課税されません。また、信託契約後に信託不動産を売却する際の手続きは受託者が行うため、委託者の父は登場しません。

④信託財産:現金
金融機関にて信託口口座を開設。「委託者:父 受託者:長男」の口座名義で作成しますが、どの金融機関も口座開設に協力的というわけではありません。対応してもらえない場合は、長男の個人口座を新規で作成し、その口座の口座番号等を信託契約書に盛り込むことで対応します。

⑤信託財産:賃貸不動産
賃貸による利益は受益者である父に帰属するため、確定申告(不動産所得)は父が行い、信託から生じる不動産所得に係る明細を確定申告書に添付して税務署に提出します。
固定資産税の納税通知書は登記名義人である受託者の長男宛に送付されますが、信託不動産の費用として信託口口座から長男が支払う(実質的には父が負担)ため、不動産所得の経費となります。
注意点として、信託不動産の所得(収入-経費)がマイナスとなった場合、その損失はなかったものとされるため、他の不動産の不動産所得やその他の給与所得等と通算(相殺)することができず、またその損失を翌年に繰り越すこともできません。従って、大規模修繕の後に信託契約を締結するなどの工夫が必要です。ただし、信託契約書に複数物件の記載があれば、その中での通算は可能です(信託契約書ごとに損失を切捨)。

⑥信託期間:受益者の父が死亡するまで
受託者(長男)は、信託開始時・信託期間中・信託終了時において、一定の書類を税務署へ提出。

⑦残余財産の帰属権利者:長男
信託期間終了時(受益者の父死亡時)に、長男が受益者の父から残余財産(信託財産)を遺贈により取得したものとみなされ相続税が課税されますが、信託財産(現金・賃貸不動産)の相続税評価は、通常の金銭や不動産と同じ評価方法で計算します。また、賃貸不動産については、小規模宅地等の特例(相続した土地の相続税評価額を減額できる制度)が適用可能であり、その他に信託の抹消登記及び所有権の移転登記に伴い登録免許税が課税されます。
一方で、例えば1人暮らしをしていた父の自宅を信託財産として、父の死亡後に長男がその自宅を売却した際の「相続した空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例」(エクスプレスニュースNo.13参照)の適用可否について、東京国税局の文書回答(2022年12月20日付)が公表されました。その回答において、民事信託(家族信託)における委託者かつ受益者(父)の死亡を終了事由とする残余財産の取得は、相続又は遺贈に該当しないため、帰属権利者(長男)は適用できない旨が記載されており、今後の信託実務に非常に大きな影響を及ぼすことが予想されます。

【遺言書との併用】
長男との信託契約以外に、次男の遺留分(最低限の遺産取得分)を考慮した遺言書(例えば、信託財産である賃貸不動産以外の不動産(自宅)や金融資産等を次男に相続する等)を併せて作成しておくことが必要と考えます。

3.民事信託(家族信託)と遺言書に同一財産がある場合の優先順位

(1)遺言 ⇒ 民事信託
遺言は撤回されたものとみなされ、民事信託が優先されます。

(2)民事信託 ⇒ 遺言
遺言の対象財産は法律上受託者の所有になっているため、信託後に遺言書を作成したとしても、その財産については無効となります。

 (担当:福田)

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