相続登記とは、被相続人から相続した不動産の名義を、相続人の名義へ変更する手続きをいいます。この相続登記や、登記簿上の所有者の住所が変わった際に行う住所等変更登記の申請については、これまで義務化がされておらず罰則も課せられなかったため、登記せずに放置されやすい状況でした。しかし、国土交通省の2016年度の地籍調査の資料によると、これらの未登記が原因で所有者が特定できない土地(所有者不明土地)が国土の約2割を占めており、その土地の利用が阻害されるなどの社会問題となっていることから、相続登記及び住所等変更登記の申請が義務化されました。
1.相続登記の申請義務化(2024年4月1日施行)
①申請期限
「相続開始を知り、かつ不動産の所有権の取得を知った日」から3年以内
※1相続開始を知った日
被相続人と相続人の関係性が近い場合は、死亡日が知った日となるケースがほとんどですが、父(被相続人)と子(相続人)が疎遠の場合や、叔父(被相続人)と甥・姪(相続人)の場合には、死亡日と知った日が異なることも考えられます。
※2不動産の所有権以外の賃借権や地役権等は、義務化の対象になりません。
■遺産分割協議により不動産を取得した場合
遺産分割協議の成立日から3年以内
■遺言により不動産を取得した場合
遺言者の相続開始を知り、遺言により不動産を取得したことを知った日から3年以内
■施行日前に相続が発生している場合(数十年前に発生した相続も義務化の対象)
下記のいずれか遅い日から3年以内
・2024年4月1日(施行日)
・「相続開始を知り、かつ不動産の所有権の取得を知った日」
②期限内に相続登記を行わない場合
「正当な理由」なく、期限内に相続登記を申請しなかった場合には、10万円以下の過料(交通違反等と同じ行政罰)の対象となります。
※「正当な理由」の例
・相続人が極めて多数に上り、戸籍謄本等の収集ができず相続人の把握に多くの時間を要する場合。
・遺言の有効性や遺産の範囲等が争われており、誰が不動産を相続するのか明らかでない場合。
・申請義務を負う相続人や受遺者自身に重病等の事情がある場合。
2.相続人申告登記制度(2024年4月1日施行)
①制度概要
相続人申告登記制度は、遺産分割協議が難航しており相続登記を行うことが難しい場合に、自らが相続人であることを法務局に申し出ることで、登記官がその申し出た相続人の住所・氏名などを職権で登記を行い、相続登記の申請義務を履行したのと同じ効果が得られる制度です。
②過料の対象者
申し出た相続人は過料の対象とならない一方、他の相続人には履行の効果が及ばないため過料の対象となります。また、相続人の一人が法務局に申し出ることは相続発生の事実を報告したことになるため、他の相続人に過料が課される可能性が高くなるとも言えます。
③相続登記の必要性
相続人申告登記は報告的な登記に過ぎないため、相続人申告登記後に遺産分割協議が成立した場合、その成立日から3年以内に相続登記を行う必要があり、正当な理由がなく登記を行わないと上記1②のとおり10万円以下の過料の対象となります。また、相続した不動産を売却する場合、相続人申告登記を行った相続人が売主として売買契約は締結できないため、必ず相続登記を行った後でなければ売却はできません。
3.住所等変更登記の申請義務化(2026年4月1日施行)
改正前は不動産所有者の住所・氏名に変更があった場合でも、その変更登記は義務ではないため行わず、その不動産を売却や担保提供する時点で変更登記を行うことが珍しくありませんでした。しかし、相続未登記の場合と同様に所有者不明土地の発生要因と言われる住所等変更登記の未了状態を解消するため、住所等変更登記の申請が義務化されます。
①申請期限
・施行日前に住所等の変更 ➡ 施行日から2年以内(2028年3月31日まで)
・施行日後に住所等の変更 ➡ 変更日から2年以内
②期限内に変更登記を行わない場合
正当な理由(例えば住所を公示することに支障があるDV被害など)なく、期限内に変更登記を申請しなかった場合には、5万円以下の過料の対象となります。
③登記官による職権登記
予め本人の申出により、登記官が検索用情報等を用いて住基ネットに照会の上、所有権の登記名義人の氏名・住所等の移動情報を取得し、登記名義人に氏名・住所等の変更登記をする旨の確認後に職権で変更登記を行うことで、住所等変更登記の申請義務が履行済みとなります。
(担当:福田)