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エクスプレスニュース No.23

「贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)」

1.制度の概要

夫婦の財産はお互いの協力により形成されたものと考えるのが一般的であり、夫婦のいずれかが亡くなった場合に、残された配偶者の老後の生活保障を居住面から支える目的で贈与税の配偶者控除の制度が設けられました。具体的には、長年連れ添った配偶者に対して居住用不動産又はその購入資金の贈与が行われた場合、一定の要件を満たすことにより、最高2,000万円(基礎控除110万円と併せると2,110万円)まで、贈与を受けた配偶者に贈与税が課税されない制度です。

2.主な適用要件

(1)婚姻期間20年以上の配偶者からの贈与であること。
(2)配偶者から贈与された財産が、居住用不動産(又は居住用不動産の購入資金)であること。
(3)贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与された居住用不動産(又は贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産)に、贈与を受けた者が居住し、その後も引き続き居住する見込みであること。
(4)同一の配偶者からの贈与において、過去にこの制度の適用を受けていないこと(同一の配偶者からの贈与は、一生に一度のみ適用可)。
(5)一定の書類を添付して、贈与税の申告をすること。

3.制度の特長

〇家屋とその敷地を一括して贈与する必要はないため、敷地(の一部)のみ贈与することが可能です。
〇上記1のとおり2,110万円まで贈与税がかからないため、例えば相続税評価額4,000万円の土地建物のうち、1/2(2,000万円分)の持分を無税で贈与することが可能です。
〇居住用不動産の一部を賃貸などの居住以外に使用していても、居住部分がおおむね90%以上であれば、その全体を居住用不動産として取扱うことが可能です。
〇生命保険(夫:契約者および保険料負担者、妻:満期金受取人)の満期金2,000万円を妻が受け取った場合、夫から妻への贈与とみなされますが、その2,000万円を贈与年の翌年3月15日までに居住用不動産の取得に充てるなど一定の要件を満たせば、本制度を適用できるため贈与税は課税されません。
〇相続又は遺贈により財産を取得した者に対する相続前7年以内の贈与は、相続財産に加算して相続税の計算を行いますが、贈与税の配偶者控除の対象となった金額(基礎控除110万円を除く2000万円までの金額)は加算の対象となりません。

4.貸家兼自宅の土地建物の持分贈与

【前提】
■土地建物の所有者・・・夫
■居住部分・賃貸部分の割合・・・各1/2
■夫から妻へ土地建物の持分1/2を贈与

(1)贈与時の取扱い

贈与の持分(1/2)が、居住部分の割合(1/2)以下のときは、その贈与の持分全部(1/2)を居住部分(1/2)とする申告が認められます。従って、居住部分から優先的に贈与を受けられるため、今回のケースでは贈与の持分1/2全てに対して贈与税の配偶者控除の適用が可能です。

(2)贈与後の取扱い

贈与後に想定される以下のようなケースでは、上記(1)の贈与時のような優遇された取扱いはされません。従って、贈与後の夫婦それぞれの持分(各1/2)について居住部分と賃貸部分の割合に応じて計算するため、夫婦ともに居住部分1/4(居住部分1/2×贈与後の持分1/2)と賃貸部分1/4(賃貸部分1/2×贈与後の持分1/2)を、それぞれが所有していると考えます。

〇貸家の確定申告(不動産所得)
〇貸家兼自宅の不動産を売却した場合の確定申告(譲渡所得)
〇相続税の申告時の小規模宅地等の特例の適用

5.特別受益の民法改正の影響

(1)特別受益の持戻し

特別受益の持戻しとは、特定の相続人に多額の生前贈与や遺贈があると公平な遺産分割ができないため、その一定の贈与や遺贈を遺産に持戻したうえで各相続人の相続分を計算するものです(相続人への贈与は期間制限なくすべて持戻しの対象)。改正前は、夫婦間で居住用不動産を贈与した場合、原則として特別受益(遺産の先渡し)の対象とされたため、居住用不動産の贈与を受けた配偶者は、遺産分割時に居住用不動産以外の相続分が減少し、残された配偶者の生活保障面において問題がありました。

(2)持戻し免除の意思の「推定」規定(2019年7月1日施行)

婚姻期間が長期間の夫婦間において居住用不動産の贈与又は遺贈が行われる場合、被相続人としては特別受益の持戻しの意図は無いのが通常です。そこで、婚姻期間20年以上の夫婦間での居住用不動産の贈与又は遺贈については、被相続人による持戻し免除の意思があったものとして、特別受益の対象から除かれました。ただし、あくまでも「推定」規定のため、他の相続人による反証があれば覆る可能性はありますが、実務上の反証は難しいと考えます。

(3)遺留分への影響

遺留分を計算する際、特別受益に該当する贈与は持戻して計算しますが、上記の居住用不動産の贈与についても持戻しの対象となるため、注意が必要です。

(4)遺贈により居住用不動産を取得した場合

遺言書を作成し、「妻に居住用不動産を相続させる」旨の記載があれば、贈与と同様に特別受益の持戻し免除の推定規定が働きます。贈与の場合、贈与税の配偶者控除の非課税限度額が2,000万円のため、2,000万円を上限とする贈与を実行しがちですが、贈与又は遺贈による取得には、持戻し免除の金額に上限がないため、例えば贈与に加えて遺贈でも自宅を相続させることで、遺産分割において居住用不動産以外の妻への相続分の増加が期待できます。

6.配偶者への自宅の贈与が効果的と考えられるケース

〇贈与を行うことで、贈与者の相続財産が相続税の基礎控除以下になる場合
〇自宅を後妻に承継させたいが、夫に前妻の子がいる場合
➡遺留分の計算期間(相続人への贈与は、原則として相続前10年間の贈与が対象)を考慮した早めの贈与が検討されます。
〇自宅の敷地面積が広く、小規模宅地等の特例(330㎡まで80%評価減)の上限面積330㎡を超える場合
➡330㎡を超える自宅の敷地部分を、贈与税の配偶者控除の非課税の範囲内で贈与することで、相続税の軽減効果が見込めます。
〇将来的に自宅の売却を検討している場合
➡贈与税の配偶者控除を適用して自宅を夫婦で共有することで、その自宅を売却する際の「居住用財産の3,000万円特別控除」を各々適用することが可能となり、夫婦で最高6,000万円までの売却益に対して譲渡税がかかりません。

7.利用にあたっての注意点

○夫から妻に自宅を贈与したとしても、贈与を受けた妻が先に亡くなることも想定され、自宅が再び夫の所有になると相続税対策としての効果がなくなります。
○相続による取得であれば課税されない不動産取得税が贈与の場合は課税され、名義変更に伴う登録免許税も相続時に比べて高くなります。
○自宅の敷地を贈与せずに、相続で取得した方が小規模宅地等の特例の適用により敷地の評価額が下がる可能性があります。
○配偶者には相続税の特例として法定相続分又は1億6,000万円までの非課税枠(配偶者の税額軽減)があります。
このように、結果として贈与税の配偶者控除を適用しない方が良いケースもありますので、贈与を実行するか否かの判断は状況に応じた検討が必要です。

(担当:福田)

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