遺留分とは、被相続人の財産を相続する際に、兄弟姉妹以外の法定相続人に対して最低限保障されている遺産の取得割合のことです。
2019年の民法改正により、「遺留分減殺請求」から「遺留分侵害額請求」に名称変更されましたが、制度内容に関しても改正されております。例えば遺留分の請求対象が自宅の場合、改正前は、遺留分を行使されると遺留分相当の自宅の持分を請求者に移転する必要があり、他の相続人と共有状態になるといった問題がありましたが、改正後は、遺留分を請求された側は、自宅の持分に相当する金銭を請求者に支払うことが可能となり、不動産の共有状態による煩雑さが回避できるようになりました(遺留分の金銭債権化)。
1.遺留分割合
(1)遺留分割合の留意点
□通常:法定相続分×1/2
□例外:法定相続人が以下の場合
- 1)兄弟姉妹:遺留分なし
- 2)配偶者と兄弟姉妹:配偶者1/2
- 3)父母のみ:父母1/3
(2)遺留分割合の具体例
□相続人:配偶者、長男、長女
□遺留分割合
- 1)配偶者1/4(法定相続分1/2×遺留分割合1/2)
- 2)長男・長女:各1/8(※法定相続分1/4×遺留分割合1/2)
※複数名の場合の法定相続分は均等になります。
2. 遺留分侵害額
(1)遺留分侵害額の算定
遺留分侵害額とは、遺留分権利者(兄弟姉妹以外の相続人)が被相続人の財産のうち、遺留分相当額の財産を受け取ることができない場合の、その不足額をいいます。
(2)特別受益(対象者:相続人のみ)
特別受益とは、特定の相続人が、被相続人から受けた遺贈や、結婚等のため又は生計の資本のために受けた贈与の利益のことをいいます。この生計の資本のための贈与とは例えば、住宅資金や事業のための資金を援助してもらった場合が挙げられます。
(1)特別受益を考慮した遺産分割
被相続人の相続開始時の財産額にこの特別受益額を持戻した金額を、被相続人の相続財産とみなします。そして、特別受益を受けた相続人については、その相続分から自身の特別受益額を差し引いた残額が相続分となります。
また、特別受益については、贈与の期間制限が設けられていませんが、相続人全員の合意が得られれば、特別受益を考慮しない遺産分割も可能です。
□特別受益を受けていない者の相続分 =(相続財産+特別受益)×法定相続分
□特別受益を受けた者の相続分 =(相続財産+特別受益)×法定相続分-その者の特別受益
(2)遺留分算定時(以下(A)(B)(C)は上記図を参照)
(A)相続人の特別受益
遺留分算定時の特別受益の持戻し期間について、2019年の民法改正前は期間制限がありませんでしたが、改正後は原則として相続前10年以内の贈与に限定されたため、早めに贈与を行うことで遺留分侵害額請求のリスクを軽減できるようになりました。
(B)相続人以外への贈与
原則として相続前1年以内の贈与に限り、持戻しの対象となります。
(C)遺留分権利者の特別受益
遺留分権利者の遺留分侵害額を算定する際の特別受益については10年の期間制限はありませんので、例えば20年前の贈与であっても対象となります。
(3)特別受益の持戻し免除
被相続人の意思表示(特別受益について持戻しをせずに遺産分割を行う旨を遺言書へ記載)により、特別受益を考慮しないで遺産分割を行うことは可能ですが、遺留分算定の際には、この特別受益も持戻しの対象となります。
3. 遺留分侵害額請求の時効
(1)除斥期間の満了による消滅
遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する遺贈や贈与などがあったことを知らない場合でも、相続開始から10年経過すると消滅します。
(2)時効による消滅
遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する遺贈や贈与などがあったことを知った時から1年間行使しないときは、時効により消滅します。また、遺留分侵害額請求権の行使により発生する金銭支払請求権は、遺留分侵害額請求の意思表示をしてから5年(2020年3月31日以前の遺留分侵害額請求は、10年)で時効となるため、遺留分侵害額請求をするだけでなく、具体的に金銭の支払いを請求することが必要です。
4. 最後に
残された家族が揉めないようにするために残したはずの遺言書がもとで、家族関係が悪化してしまう事態は、家族の仲が良ければ良いほど避けたいところです。そのためには、日頃から家族でコミュニケーションをとり、生前に対策をしておく必要があります。
そこで次回のエクスプレスニュースでは、遺留分対策を中心に取り上げます。
(担当:福田)